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◆ 05:17日目/アーサーと少女



■ 潜水艦UX - 通路 - ■


 今日も夜遅くまで、激しい運動を強いられたあゆみ。
 最後の男の精を身に受け、やっと解放された彼女は、重い身体を引きずるようにしてシャワー室へと向かっていた。

「……お、あゆちゃん。今日はもう終わりか? お疲れ様」

 近くで計器の検査をしていた男があゆみの姿を見つけ、声をかける。

「っ――――……」

 だがあゆみはそれを無視し、通路を進む。

(……くっ…………)

 どうすればこの狂った日常が終わるのか、あゆみはそればかりを考えていた。

 解放される可能性、もしくは男達が陵辱を止める可能性は、彼らの態度から見ても到底ありえない。
 誰かが助けにやって来てくれるだろうという淡い期待は、もうすっかり現実に押し潰されていた。ここは海の底の閉鎖された空間、それはあまりに難しいことなのだ。

 ならば、あとはもう自力で逃げ出すしかない。
 だがそれは、艦が港に停泊中の時でなければならない――という極めてやっかいな条件がある。
 普段の男達の監視は基本的に甘いため、部屋から抜け出すだけならばさほど困難では無いのだが、それだけでは全く意味が無い。望むのは艦の外への脱出なのだ。

 先日のドック入りの際の、希少な機会。
 そこであゆみは逃亡を試み――、失敗した。

 当然今後も、UXが港入りする事は幾度となくあるだろうが、今度は男達も念入りにあゆみの部屋の戸締まりを確認してから出かけて行くことになるだろう。

(……うぅ…………)

 あゆみは唇を噛む。

 あの時あゆみは、逃げ出せるかもしれないと言う期待が大きすぎて、いても立ってもいられず強引に艦から出てしまった。
 もちろんあれ以上待っていても、ドック内の人の数が少なくなることはなかったかもしれないが、それでももう少し慎重になっていれば、違った結果になっていたかもしれない。

 次の機会はいつ訪れるか分からない。
 男達に警戒心を与えてしまった以上、二度と訪れないかもしれない。

 少なくともまだしばらくは、こうやって犯され続ける日々が続き、このままどんどん身体をおかしくされていくのだと考えたら、あゆみは恐ろしくなってきた。

(……もう…………、やだ…………)

 多数の獣のような男達を前にしても、いつも気丈に振る舞うあゆみ。
 だがこうして一人になると、張り詰めていた気持ちは急速に萎んでいく。
 瞳の端に涙を浮かべたその姿は、やはり年相応の幼い少女でしかなかった。

「……………………」

 ふとあゆみは、通路の向こうから来る一人の男に気が付いた。
 その男は、いつもの男達が着ている深緑の作業着のような服ではなく、もっとスッキリとした黒っぽい制服を着こんでいる。
 彼の周りで作業をしている何人かの男達は、その男に軽く頭を下げている。

「……ぁ…………」

 それは、港であゆみをさらった男。
 あゆみの父親を撃った男。
 全ての元凶である男だった――。

 足を止め、身体を強ばらせるあゆみ。
 一瞬引き返そうかと、あゆみは思った。

「――――っ……」

 だが、自分が彼に背を向けて逃げる理由など無い。

 あゆみは涙の溜まった目をこすり、顔をキッと引き締める。
 ふつふつと怒りを思い出してきたあゆみは、もし男が何か言ってきたら、パンチの一つでもお見舞いしてやろうと心に決め、拳を握りしめながら彼のいるほうへと歩き出した。



   ◇



 アーサーは、緩慢に作業をしている乗員に一言二言注意した後、艦尾の方へと向かおうとした。

「…………っ……!」

 そしてその先に、自分が連れてきてしまった少女がいる事に気が付いた。

 アーサーは初日以来、あゆみとまともに顔を合わせていない。
 彼があゆみの姿を目にしたのは、この二週間ちょっとの間でほんの数回だけ。
 部下達が倉庫で彼女を犯している時に、偶然通りかかって見たくらいだった。

 アーサーは、少女が犯されたと知ってから、意図的に彼女を避けていた。

(…………く……っ……)

 会いたくない人間との遭遇にアーサーの目が泳ぐ。
 彼女がこんな酷い目にあっている原因は紛れもなく自分にあるのを彼は自覚していた。

 一時の激情に駆られ、レッド提督の仇である707号の艦長の娘をさらった。
 だがその少女の扱いを決めかね、明確な指示を与えないまま部下にその処遇を任せてしまった。
 そして、部下達が意に反して彼女を犯したのを知った後も、彼らを叱責することが出来ず、そのままになってしまっている。

 何もそこまでするつもりでは無かった――と、今さら言ってもどうしようもない。

(――――……)

 アーサーは自分が情けなかった。

 アーサーは、故レッド提督の一時的な代理としか思われていない。
 USRの組織内の縦の構造は、レッド提督一人の下に、役職を持った多くの者達が平等に存在するような形だった。
 だから、いくらレッドが戦死したからとはいえ、二番手の位置にいたアーサーが、すんなり首領として認められるわけではなかった。

 確かに優秀ではあったが、有事の際に弱さを見せる一面があったアーサー。
 レッドの存命中からすでに、彼が二番手にいることに不満を抱いていた者もいる。
 人を惹き付ける強さに欠ける彼がこうしてUSRのトップに立ってしまったことに、疑問の声が上がるのは当然だった。

 それはアーサー自身も重々分かっている。
 誰かを補佐する秘書のような立場が自分には一番向いているのだと。
 とても大勢の人間をまとめ上げることが出来るような器では無いのだと。

 そもそもアーサーは、レッドほどの男の片腕になるのには自分ではあまりに能力不足ではないかと当初から悩んでいた。
 それでもレッドが生きていた時は、僅かでも彼の役に立てるのが嬉しくて、周りから何を言われようとも、脇目もふらず懸命に仕えてきたのだが――。

 アーサーは首領として適任では無いかもしれない。
 だが、他に代われる者がいないのも事実だった。
 誰が上に立ったとしてもレッド以上にはなれるはずもなく、結局不満は噴き出すだろう。

 レッド提督の後釜としての、USR首領兼、旗艦UXの艦長。
 戦況の悪化と、最も太い柱を失った組織を率いる難しさ。
 自分の未熟さや統率力の無さを、ことあるごとにまざまざと見せつけられているアーサーは、もう気持ちが折れる寸前だった。

 今回の少女の件も、一人二人が規律を乱したのであれば、アーサーも何とか出来ただろう。だが、こうして副長を始め他の乗員の全てが暴行に参加してしまっているのでは、もう何も言えなかった。

 通路の向こうから歩いてくる、幼い少女。
 アーサーは、今来た道を引き返したくなった。
 だがそれでは、まるで自分が犯した罪から逃げ出すかのよう。

「……っ…………」

 アーサーは一つ唾を飲み込むと、帽子を深くかぶり直し、こちらへ向かってくる少女の姿を視界から消す。
 そして表情を崩さずに、彼女の方へ一歩踏み出した。



   ◇



 あゆみは、以前耳にした男達の会話を思い出した。
 「艦長だけは、参加しねぇよな」――と言う、誰かの言葉。

(…………)

 『艦長』と言うのは、恐らく今目前にいるあの男のことだろうと、あゆみも察した。
 最初にここに連れてこられた時にも、彼がそう呼ばれていたような覚えがある。

 確かに、自分が酷い仕打ちを受けている場で、あゆみは一度も彼を見たことがなかった。犯されている最中に相手の顔など見ていないあゆみだったが、それでも彼に何かされた記憶は全く無い。

 そもそも彼はこの艦に乗っていないのかと、あゆみは思っていた。
 直接彼に会ったのは、最初の時だけ。
 言葉は、交わしたとは言えない程度でしかない。

 元凶であるとはいえ、あゆみにとってアーサーは、今やこの艦の中で一番接触の少ない人間になっていた。



   ◇



 アーサーは、少女に対する性的暴力が発覚してから、幾度となく考えた。

 『こうなってしまった以上、乗員達のストレス発散のための行為として目をつぶるしかないのではないか』――と。

 『それが士気向上へと繋がり、USRのためになるのなら』――と。

 だが、いくら理想のためにとはいえども、どこか悪に染まりきることが出来ないアーサーには、割り切ることなど出来なかった。
 第一、悪役になることを辞さなかったレッドでも、この手の恥ずべき行為だけは、決して許可しなかっただろう。
 身勝手な情けない言いわけだ――、とアーサーの頭の中で誰かが囁く。



   ◇



「…………」

「…………」

 通路に響く軍靴の音と、運動靴の小さな音。
 USRの最高責任者と、場違いなあどけない少女。
 その二人の距離が近付いて行く。


 そして、

 ――――すれ違い。

 アーサーとあゆみは平行線を保ったまま。
 互いに何も言葉を発しない。


 身体を緊張させたあゆみは、真横を通って行く男の横顔をちらっと盗み見た。

(…………)

 その顔は、前に見た時よりも険しい。
 そして、酷くやつれているように見えた。

(…………)

 男が何も言ってこなかった事に毒気を抜かれ、思わず立ち止まり、離れていく男を怪訝な顔で見つめるあゆみ。
 その視線に気付かないのか、気付いて知らぬ振りをしているのか、アーサーは振り返りもせず通路の先へと去って行った。





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