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◆ 06:19日目/夜明け前の交戦



■ 潜水艦UX - 倉庫 - ■


「ふう……、それにしても今日のは肝が冷えたぜ」

「ああ。浸水が無くて良かったよ」

「でも、USUBが一隻やられちまったしな……」

 マットの上にうつぶせに倒れ、肩で息をしているあゆみの横。
 取りあえず一回ずつ欲望を吐き出し終えた男達は、煙草をふかしながら真面目な顔で話をしていた。


 今日の夜明け前。
 UXは哨戒中のPKNの潜水艦二隻と鉢合わせし、交戦した。
 今回の航海では、UXは三隻のUSR標準型潜水艦『USUB』を引き連れて行動していたのだが、そのうちの一隻がこの戦闘により沈み、UXも軽度とはいえ損傷したのだった。


「で、どうするんだって? 補充の艦は来るのか?」

「いや、一番近くの基地からでも時間がかかるし、このままらしいぜ」

「そうか。……まあ正直、USUBがついて来ても、かえって動きにくいしな」

「まあな」

 UXは基本的に単独行動が向いている。
 他の艦に比べ頭一つ抜けた機能や装備を持っているため、その性能を十分に発揮するには一艦のみで動くほうが良いのだ。
 だから、大規模な戦闘の時でもなければ単独で航海するのが常だった。

 だが。
 そのUXの能力を余すところ無く引き出せたレッド提督はもういない。
 代わりに艦長となったアーサーの指揮に対する不安は、USRの誰もが感じている。

 USRの上層部は、それらを考慮した結果、ある選択をした。
 すなわち、『現状ではUXを単体で運用するのは危険である』と判断し、『守備力を上げるためにUSUBを複数付ける』という方法を選んだのだった。

 だが結果は裏目に出た。
 先制攻撃を受けてしまったUSRの艦隊は、練度の低かったUSUB一隻が魚雷の直撃を受け大破。UXもまた、その爆発に巻き込まれて傷を負ってしまった。

「PKNの奴らは、逃しちまったしなぁ」

「…………くそッ」

 敵のPKNの潜水艦二隻は無傷で戦場から離脱している。
 四対二でありながら一方的にやられてしまったUXの乗員達は、歯がみをするしかなかった。



   ◇



「……………………」

 息が整ってきたあゆみは、そんな彼らの会話を、薄目を開けて聞いていた。
 衝撃が来た瞬間、あゆみはまだ寝ていたのだが、激しい揺れと大きな音に目を覚ました。その後の急激な船体の傾きでは、危うくベッドから転がり落ちそうになった。
 今までも何度か艦が揺れるのは経験していたが、今朝のものは、あゆみがこの艦に連れてこられてから一番大きな揺れだった。

「…………。あゆちゃんも、朝はビックリしたろ」

 あゆみが自分達の話に興味がありそうなのを感じたのか、男の一人が彼女に声をかける。

「……っ…………」

 気付かれたあゆみは慌てて顔を背け、身体を丸めた。

「すぐ近くで魚雷が爆発したからな」

「交戦中だともっと揺れが酷い時もあるから、『総員、対ショック体勢!』とかの艦内放送があったら、しっかりどこかに掴まっておけよ」

 僚艦が撃沈されたとあって、男達の声には覇気が無い。
 ソナーが役に立たない混乱の中でUXが軽傷で済んだのは、ただ運が良かっただけだということは男達もよく分かっているのだ。

「だけどよー。万が一逝く時は一発でドカンとやって欲しいよな。動けなくなって沈んで、酸欠で――……ってのだけはやめて欲しいぜ。はははっ……」

 自嘲気味な冗談を言う男に、他の男達はただ苦笑いを返すだけだった。



「…………」

 あゆみはもう一度そっと男達の方を見た。
 つい先程の男達にされた行為がいつもより淡泊だった理由は分かった。
 そして同時に、怖くなってきていた。

 あゆみが男達の口から戦闘に関する話を聞かされるのは、これが初めてである。
 この艦が本当に自分の父親が所属している軍と戦っているのだと、あゆみは今さらながら実感していた。
 また、男達は当然ある種の覚悟をしてこの艦に乗り込んでいるのだが、あゆみは無理矢理連れてこられただけでしかない。あゆみは『自分が乗っている潜水艦が沈められる可能性』に対して、何の心構えも出来ていなかった。

「おう、さすがに不安か?」

「今朝のはちょっと破片が当たっちまったんだけど、全く問題無い程度だから安心しな」

「この艦は優秀なんだぜ。そう簡単にやられやしねーよ。はははっ」

 男達はあゆみに言う。

 だがいくら基本性能が良くて装甲が厚く作られているUXでも、一発中央部分にでも魚雷の直撃を受けてしまえばひとたまりもないのは、他の潜水艦とたいして変わらない。
 今度大がかりな戦闘になったら生き残れるのか――と、男達は内心不安をつのらせていた。レッドが指揮していた時のような絶対的な安心感は、今はもう無いのだ。

「…………」

 そんな男達の感情は、あゆみにも伝わってしまっていた。
 男達に犯されて中出しされるのとは全然別の、生命の危機があるという恐怖。
 不安が膨らんでしまったあゆみは、思わず体を起こした。

「ほ、……ほんとに――――」

 あゆみの口が小さく動く。

「――――……だいじょうぶ……なの?」

 罵りでも嫌悪混じりでも無い、ごく普通の口調。
 あゆみのほうから、こんなふうに穏やかに話かけてくるのは初めてであり、男達は驚いて一瞬固まった。

「ぁ――……、ああ! 心配するなって!」

「きょ、今日は奇襲を受けちまってさ! だけどいつもはこんなことはないんだぜ!」

「つか、多少の損傷なら大丈夫なんだよ。そもそも攻撃を受けることを前提に造られてるんだから、対策も万全だしな」

「いざとなったらさ、各区画はそれぞれ隔離出来るようになってるし」

「ほら、通路がそこらじゅう厚い扉で区切られてるの、あゆちゃんも見てるだろ」

「…………ん……」

「あれで、万が一の時にも水が入ってこないように出来るんだよ」

「あと、居住区は構造的に他より丈夫なはず」

「そうなんだっけ?」

「ああ。この倉庫のあたりも比較的安全なほうかな?」

 男達は代わる代わるあゆみに話しかける。
 珍しいあゆみの態度に舞い上がってつい口数が多くなる彼らであったが、一方のあゆみはといえば、また唇を結んでいた。

 二十日近くもこんな生活をさせられ、普通の、人としての会話に飢えていたあゆみ。
 男達が普段と違って神妙だったのでついつい話しかけてしまったのだが、相手がいつもの大嫌いな男達なのだと言うことをすぐに思いだし、少し後悔していた。

「なあ、あゆちゃんはこの艦の中って、見て回ったことないんだよな」

「ん? ああ、多分」

 男達は、黙り込んでしまったあゆみを横目で見ながら、なおも話を続ける。

「ならさ――……、少し案内してやろうか?」

 そして一人の男が提案していた。

「今回みたいに何かあった時のために、色々知っておいたほうがいいこともあるし」

「……そうだなぁ、たまにはそういうのもいいか」

「あゆちゃんは、シャワールームとトイレくらいしか行ったことないんだっけ?」

「あとは、俺たちの部屋と食堂だな。それしか用事無いだろうし」

 厳密にはあゆみは、ドックで逃げ出した時に搭乗口までは行ってみている。
 だが、あの時のあゆみは出口を探すことしか頭になく、周りに何があったかなど覚えていない。

「……まだ時間あるし――、どうする?」

 一人の男が時計を見る。

「俺は別にいいぜ」

「……どうだ、あゆちゃん。艦の中、見てみたけりゃ、連れてってやるぜ?」

 他の男達はすぐに賛同し、あゆみへと話を振る。

「…………っ……」

 男達が調子づいて話しかけてくるのがちょっと癪に障り、あゆみは顔をしかめた。
 だがあゆみは、思った。
 艦内の様子を少しでも知ることが出来れば、逃げられる可能性が高まるのではないか――と。

 男達のしてきた提案は、あゆみにとっても歓迎すべきことである。
 あゆみは眉間に皺を寄せつつも、乱れた前髪の間から男達を見上げた。

「どうする、行ってみるか?」

「……………………、…………ん……」

 そして、小さく頷いた。





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