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◆ 07:19日目/艦内巡行 #1



■ 潜水艦UX - 倉庫前 - ■


 男達は気持ちを切り替えていた。
 レッドがいなくなった以上、いつ何があるか分からない。今日沈められた僚艦のように、自分達もいつ海の藻屑となるか分からない。
 だから今出来ることを存分に楽しもう――と、気持ちを切り替えていた。



「うぅ……っ! やっ! やだってばぁっ!!」

 首には首輪。
 手と足には枷。
 他に身に着けているものといえば、靴と靴下と頭のリボンくらい。
 あゆみはそんな格好で通路に連れ出されようとしていた。

「へへへっ……」

 顔をだらしなく歪ませた男が後ろからあゆみの肩を掴み、部屋から押し出そうとする。

「服、返してっ! これ、はずしてよっ!」

「ははっ。まあ、いいじゃねぇか。恥ずかしがってねえで来いよ」

 首輪と手枷からは、それぞれ引き綱が伸びていた。
 その綱を、先に部屋の外に出ている別の男達が強く引っ張る。


 裸での散歩――。
 ただ艦内を見せて回るだけでは面白みに欠けるからと、一人の男が言い出した案だった。


「嫌っ! こんなのやっッ!!」

 あゆみは部屋から出まいとして、足を踏ん張って抵抗する。
 手枷をはめられた右手と左手を何度も乱暴に動かし、繋がっている鎖が外れないかと試みる。
 だが体は徐々に通路のほうへと動いていってしまう。

「うう〜っッ! 案内してくれるって言ったのにっ!」

「おう。案内は今からちゃんとしてやるって」

「でもな、それであゆちゃんに逃げ出されちまったら、俺達が怒られちまうんだ。だからこれは仕方が無いんだよ」

 首輪に繋いだ引き綱の端を持った男は、それを軽く持ち上げてあゆみに見せつけた。
 わざとらしく肩をすくめ、自分の意思では無いというような表情を作る。

「にっ……、逃げ出したりなんかしないってばっ!」

「そういうけどあゆちゃん。一度脱走したよな? あれは結構問題になったんだぜ」

「――――……ぅ……」

「俺達もこんな拘束具なんて付けたくないんだよ。でも前科があるんじゃしょうがないよなぁー。へへへ……」

 男達は裸のあゆみを見てニヤニヤと笑う。
 理由など、当然後付けだった。
 後ろのほうにいる男達はあゆみに聞こえない小さな声で、「こういうの俺もずっとやってみたかったんだよ」、「どうせなら外でやりてえところだけどなぁ」と呟き合う。

「ほら、もう行こうぜ」

「――ぁうッ!」

 あゆみは背中を小突かれた。
 よろめいて思わず通路へと出てしまったあゆみの後ろ、最後に部屋を出た男が扉を閉める。

「ふ……、服はっ? 手のは付けるの分かったけどっ! なんで裸で行かなきゃいけないのっ!?」

「ん? ……んー、ほら、まあアレだ。その格好なら、万が一何かあった時でも艦の外に出るわけにいかないだろ?」

「そうそう。前回みたいに外に逃げられちゃ困るから、一応の保険みたいなものだよ」

 あゆみの文句は、代わる代わる口を開く男達に退けられた。



(……く……っ…………)

 あゆみを取り囲んでいる男達は五人。
 手枷や首輪などを付けられていなかったとしても逃げることは困難だ。
 だから当然、裸にまでさせられる理由など全くない。

 けれどいつも、男達は言い出したら聞かない。
 どちらが正しいかなど問題ではないのだ。
 また男達の身勝手な言い分を受け入れるしかないのかと、あゆみは唇を噛んだ。

「いいじゃねぇか。どうせみんな、あゆちゃんの裸は何度も見てるんだしよ」

「――っ……」

 いくらそうだとしても、恥ずかしいことには変わりは無かった。

 しかも今は、男達は全員ちゃんと服を着ているのだ。
 自分だけ先程犯された時のままの姿なのだ。

 まるで奴隷のような扱い。
 あゆみは人の尊厳を土足で踏みつけられているような気分になっていた。

(っ――……、うぅ〜〜っ! もうやだっ! この人たちっ!)

 あゆみは怒りも込み上げてきていたが、半分呆れかえってもいた。
 この下品でがさつな男達は、何ですぐにこうやっていやらしい方向へと持って行くのだろうか――と。

 先程まであった戦闘に対する恐怖も、もうすっかり薄らいでしまっている。
 気弱になっていた男達に僅かでも共感のようなものを感じてしまった自分が馬鹿だと思った。

 ただ同時に、あゆみは思い至っていた。
 それは、「同じく潜水艦で仕事をしている父親も、常に先程のような恐怖の中にいるのだろうか?」ということだった。

(……っ…………)

 それならばなおさらだ。
 なおさら、早くに家に帰りたい。
 父親に今の仕事をやめてもらうように言いたい。
 もしそれがどうしても無理だったとしても、せめて自分が無事に帰って安心させることで、少しでも父親の精神的な負担を無くしたい――。



「まあガキでも女の子だもんなぁ、素っ裸じゃあ恥ずかしいか? ふへへっ……」

「くくッ、可愛いところあるじゃねーか」

「……っ……、こんなの……別にっ――」

 今はこの艦の内部を知る良い機会。

「――恥ずかしくもなんともないしっ!」

 普通の格好では案内してもらえないのなら、この格好で我慢するしかない。

「裸じゃ寒いからイヤだって言ってるのっ!」

 あゆみは男達の小馬鹿にしたような言い方に反抗するように言った。
 こんなことは別にたいしたことでは無いと自分に言い聞かせ、恥ずかしさを押し殺す。

「んー、じゃあ結局どうするんだ? どうしても嫌だってんなら止めとくけどさぁ?」

「まあ、俺達はどっちでもいいんで」

「やっぱり行くの止めるか? んで、もう一度みんなでひと汗かくか? なァ、あゆちゃん。うへへっ」

 それにこのまま拒否しても、また倉庫の中で男達に何度も犯されるだけである。
 それなら、少しでも自分にメリットのあるこの辱めを受ける方がまだましだった。

「…………っ……」

 あゆみは何も答えない。
 だが、その代わりに抵抗を止めた。

「どうする? 行くんだな?」

「ったく、最初から素直になればいいのに」

 あゆみを囲んだ男達は、ニヤニヤと笑みをこぼす。

「さー! じゃあ艦内の散歩としゃれこむか!」

「ほらっ! 行くぜ!」

「……くっ――」

 ゆっくりと歩き出す男達。
 後ろにいた男から背中を押されるあゆみ。

「どこから案内してやろうか」

「まだ朝の損傷の点検で頑張ってるやついるしな。そっちも回ってやろうぜ。みんな元気になるよ」

「へへッ……、下半身の一部が元気になっちまうかもしれないけどなぁ!」

 男達の顔からは笑みが絶えない。
 幼いとはいえ美しい少女を、裸にして首輪と枷をつけて、連れ歩けるのだ。
 あゆみを完全に自分達の所有物にしたかのような状況に、男達はすこぶる気分が良かった。







■ 潜水艦UX 一階 - 通路 - ■


「ぅお! びっくりした。……あゆちゃん、どうしたんだ?」

「いや、ちょっと散歩をね。へへっ……」

 UXは通常の潜水艦より大きいため、艦内は二階建ての構造になっている。
 所々入り組んでいる場所はあるが、一階にも二階にも、中央には大きな一本の道が縦に通っている。

「素っ裸でかよ? はははっ」

「くくッ、ったく何やってんだか」

 用事があって移動する者は、たいていの場合この大きな通路を通るため、行き交う人の数は多い。
 あゆみはそこを裸のまま連れ回されていた。


「……うぅ…………」

 頬を赤く染め渋々男について行くあゆみを周囲の男達はジロジロと眺める。

「へへっ……」

「……くくッ……」

 最初は何事かといぶかしむ彼らだったが、理由が解ると、その視線は明らかに性的な好奇心が含まれたものに変わった。

「おう、もうちょっとゆっくり歩いてくれよ!」

「……っ……」

 仕事の手を休めて通路をのぞき、注文を付けてくる男。

「あゆちゃん、そんな格好で寒くないのか?」

「―――ひゃっ! ……っ! うう……っ!」

 すれ違いざまにあゆみのお尻を撫でていく男。

 あゆみの素肌に、四方八方から男達の視線が浴びせかけられる。



「っ――……、ひ、ひっぱらなくても歩けるってばぁ!」

 あゆみは人目に裸体を曝しているのが思った以上に恥ずかしくなってきて、手枷の鎖を引っ張る男に毒づいた。


 


 確かに、アーサー以外の全ての男に裸は見られている。
 だがこういう形で見られるのは、また違う恥ずかしさがあるのだ。

 自分一人だけが服を着ていないということ。
 それに加え、周りの男達がいつもとは違うのだ。
 自分を犯す目的で集まった時とは違い、皆、真面目に何かの作業をしているのだ。

 そんな中で裸に剥かれている。
 それがあまりに場違いなものに感じられて、あゆみの羞恥心は急速に膨らんできてしまっていた。

「……っ…………、〜〜ッ」

 そして湧き上がるのは恥ずかしさだけではない。
 屈辱もだ。
 まるで見せ物の動物になったかのような状態である。
 ただでさえプライドの高いあゆみは、そんな扱いをされていることが悔しくて、薄っすらと涙を滲ませていた。


 あゆみは手枷に繋いだ引き綱を持った男に近づいて、せめてその陰に隠れようとする。

「おっと……、そんなに急ぐなよ」

「……あ……ぅっ!」

 だが後ろの男が首輪に繋がった綱を引っ張り、そうはさせない。
 連れ添う前後の男達は、あゆみから程々の距離を空けて歩いているのだ。
 彼女の姿が誰の目にもよく見えるように――、と。

「……おッ!あゆちゃんじゃねーか。ははっ、何やってんの?」

「いやぁ、実はね――」

 また新しい男が通りかかった。
 案内の男達は、また同じように説明を繰り返す。
 すると新たに出逢った男の口元は緩み、目もいやらしいものに変わり、視線はあゆみの胸の先や股間へと向けられる。

(……うぅ……)

 顔が熱くなる。
 それでもあゆみは、何とか恥ずかしさを胸の奥に押し込めようとしていた。

 今、気にしなければならないことはそんなことではない。
 やらなければならないことは一つ、周りの様子をしっかり目に焼き付けておくことだ。

 いつも行くトイレやシャワー室はもう後方。
 前に連れて来られた食堂も、今通り過ぎた。
 この辺りからは、一度逃げ出した時に通りはしたが、ほとんど覚えていない場所になる。

(……っ――、ふぅ…………)

 あゆみは羞恥で血が上っている頭を冷やそうと、大きく息を吸い込んだ。







■ 潜水艦UX 一階 - 医務室前 - ■


「――そっちの白い扉の部屋は医務室だ。もしどこか具合悪くなった時には、遠慮せずに行ってみな」

「あゆちゃんも一度来てるんじゃなかったっけ。初日に」

「ははっ、あの時はあゆちゃん完全に失神しちゃってたからな。記憶に無いだろ」

 あゆみを裸で連れ回しその反応を楽しむ男達だったが、「艦内の案内をする」という約束も破ってはいなかった。
 男達は道すがら、各部屋の説明をしていく。

「……で、こっちとその向こうの部屋は、魚雷の発射管室」

「UXは搭載魚雷の種類も本数も多いからな。魚雷発射管室は他にも幾つもあるんだぜ」

 指を差しながら言う男達。
 あゆみはその度にそちらに顔を向ける。

「こういう所には間違っても入るんじゃないぞ? 危ないから」

 あゆみはUXの武器関係の場所になど興味は無かったし、怖くて近づきたくもなかった。
 そんな部屋に入る気などもさらさら無いので、素直に男の言葉にうなずく。

「……………………。……そっちは?」

 通路の横の、ひときわ大きな階段。
 あゆみはそちらに顔を向けた。

「そこも二階へ行く階段だ。先に一階を説明してやるから、二階は後でな」

 男はあゆみの質問にすんなりと答えた後、また一階の船首の方へと歩き出す。

(…………)

 あゆみは先日の記憶を辿っていた。
 逃げ出した時に通った階段は恐らくここだったはず――と、あゆみはぼんやり思い出していた。

(シャワー室から二つ部屋を過ぎたところのが……、外に出るところの階段……)

 他にも階段やはしご等は幾つもある。
 だが、それぞれどこへ繋がっているのかは定かではない。

(白い扉の医務室を過ぎたところのが……、外に出るところの階段…………)

 目をつぶって繰り返す。
 あゆみは次回逃げ出すときのために確実に出口に向かえる場所をしっかりと覚えておこうと、今見たものを頭の中に叩き込んでいた。







■ 潜水艦UX 一階 - RPV制御室前 - ■


 通路を歩いて行くと、また人の多い場所にさしかかった。

「あゆちゃんの方から来てくれるとはな」

「いい目の保養になるぜ!」

 あゆみ達がやって来たのは、朝の被弾で一番損傷が大きかった区画だった。
 修復作業と動作チェックに没頭していた男達は、一旦手を止め、額の汗を拭う。

「あれ……、もうあゆちゃん起きてる時間だったのか」

「はは、何言ってるんだよ。もう11時過ぎだぜ」

「面白そうなことしてていいなぁ」

「ちぇっ、こっちは大変だってのによぉ。あははっ」

 あゆみの姿を目にした男達は皆、声が明るくなる。
 殺伐とした仕事場に少女がやって来ることなど初めて。
 男達のテンションは上がり、朝の戦闘で沈鬱になっていた空気も吹き飛んでいた。



 あゆみの存在――。
 それは性欲処理の点を抜かしても、乗員達に大きな影響を与えていた。

 UXの男達は、三つの時間帯を基本として生活をしている。
 その三つとはすなわち、『当直の時間』、『非番として待機している時間』、そして『睡眠の時間』だ。
 これらは各6時間とされており、合計は18時間。
 この18時間サイクルの一日を、三つに分けられたグループが一つずつ時間帯をずらした形で生活をしており、常に同じ人数の者が任務に就いているのだ。

 あゆみは、いつ見ても誰かが起きていることを少し疑問に思っていたがそれは当然のこと。
 潜水艦UXは”不夜城”なのだ。

 そんな中で、あゆみは通常通りの24時間を過ごしていた。
 これは乗員達にとっては極めて新鮮なことであった。
 今まではUXに乗り込んでしまえば独特の生活が待ち受けていたのだが、あゆみの寝起きというものを通して、男達は『朝や夜のある本来の一日』というものを意識するようになっていた。

 そんな、戦闘に関係の無い人間が乗り込んでいる、という状況。
 しかもその者は、幼く、かつ女性――。

 それは男達の意識を変化させていた。
 男達はあゆみをさんざん酷い目に遭わせている。
 だがその一方で、あゆみを『この艦の一員の守るべき対象』として、無意識ながらに認識する者が出てきていたのだ。

 特に今日のように沈没の危機にさらされた後ならばなおさら。
 一種のマスコットのような少女の存在は、UXの男達の士気に大きく影響を及ぼすようになっていた――。



「ふう……。何とか飯の時間までには終わりそうだな」

「おう、もうひと踏ん張りするか」

「あゆちゃん、また後でなー」

 男達は腕まくりをし直し、また修復とチェックの続きに取りかかる。
 彼らもあゆみをもっと構いたかったのだが、一刻も早く終わらせなければならない作業があり、さすがにそれどころではないのだ。

「……ほら、みんなに『頑張って』の一言でも言ってやりな」

 被害が大きく特に忙しいこの部署の男達を前に、あゆみを連れ回している非番の男達も少々気が引けていた。
 男達はあゆみの背中を叩いてうながす。

「――――……」

 もちろん、あゆみはそんなねぎらいの言葉を口に出す気などさらさら無い。
 ただ、

(……っ…………)

 酷い目に遭わされているとはいえ、この艦という生活空間を維持しているのもこの男達に他ならない。
 その事実を目の当たりにしたあゆみは、少しだけ複雑な気分になっていた。





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